おいしい水を作る天恵石 エッセイ集

12  パナマハット。 

男の夏の帽子は、パナマに限るといってもよい。

私は梅雨の頃から、彼岸が過ぎる頃までパナマをかぶっている。

かぶりだしたのは、50歳を過ぎる頃からで、頭髪が細く、軽くなりだし、風の強い時は髪が舞ってしまい始末に終えなくなったからだ。特に地下鉄の出入り口の強風は、頭髪を押さえたくらいでは髪の乱れを止めることができない。

そこで、冬はソフト、夏はパナマと相成った次第だ。

最近は、秘伝の毛繁え薬でこの心配はなくなったが・・・・・・・・念の為。

 

真夏になると、よほどのところへ行かない限りスーツを着ずに、それなりの半そでシャツて通している。それでもパナマは手放さない。

シャツ姿でパナマはどうかな?と最初は思ったが、外国映画を観ると外国ではけっこうかぶっているようで安心した。

また、街中のガラスに映るわが身を見ても様になっているから、押し通している。

 

パナマをかぶる人には、パナマ帽のマニアがいることがわかった。

街中で、パナマをかぶる人にすれ違う時、かなりの割合で目線が私のパナマの品定めをされる。『オッ、いいのかぶってやがる』とか頭から足の先まで一瞥し、『チェ、似合ってやがる』など、心中穏やかでない思いを目や顔に出す紳士がいる。こんな時は私も『ザマーミロ』なんて心中で罵っている。

 

パナマハットは、エクアドルの丘陵地帯で作られているらしい。編目の粗いものから細かいものまで様々で、値段も20万円を越すものから1万円以下のものまで売られている。

色もナチュラルから漂白されたものから、黒や茶に染めたものまで様々有る。

そのなかで、財布と相談しながら似合うパナマを選べばすむことだ。

パナマをかぶって紳士を気取るなら、さり気なく通り過ぎて行ってもらいたい。

無関心を装うのが紳士の嗜みだと、私は考えている。

 

私の友人でパリ在住の画家がいて、数年に一度は個展を開くために帰ってくる。そのとき、彼は冬でもコートを着てパナマをかぶっていた。「向こうじゃ冬でも平気なのか」と、聞いたら、「何故?」と、質問自体が愚問だったようだ。この事を帽子屋の店主に聞いたら、原則は季節を問わず帽子をかぶるのは自由なのだそうだ。「日本では少ないですがネ」と言われた。

 

私はパナマに限らず帽子全体が、実用的な数少ない男性のアクセサリーだと考えている。

街で見かける、帽子をかぶっている方は、スポーツキャップか、老人の布製の帽子が断然多いのに気がつく。老人の布製の帽子は耐暑にもなり、防寒にもなる実用性は優れているが、やや洒落っ気にはチョッと無理がある。

私に言わせれば「巣鴨のオジサン」ってとこだが、巣鴨にだって『巣鴨の恋の物語』なんてカラオケで替え歌を唄うカップルがいるらしいのだから、もうチョッと奮発してパナマハットをかぶって、とげ抜き地蔵をたわしで洗う姿も粋ではないか。

 

 

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